夜中1時、ガイドさんが起こしに来てくれる前から
準備を始める人たちの物音で、すっかり目は覚めていた。
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「体調はいかがですか?眠れましたか?」
どちらにも大きく明るくうなづくことはできない状態だったが
どうせ私はまた、本番が始まればなんとかなってしまうのだ。笑
皆の体調に問題がないことを確認すると
「では、強風予報が弱まったので、行きます。」
と、ガイドさんは、覚悟はいいですか?というような表情で一人一人と目を合わせた。
山小屋で用意された朝食のお弁当(カロリーメイトやパン)を持って
真っ暗闇の中、遥か上まで続くヘッドライトの列に加わる。
ところで、富士山では標高が上がるのと比例して物の値段が上がる。
八号目の山小屋ではペットボトルの水が600円。
この距離を運び上げるのだし、荷物を少しでも軽くすることができるのだから有難い。
(山頂のカップ麺1,200円には惹かれなかったが)
昨日の登山は夕方遅くの出発だったこともあってか、
予想に反してほとんど汗をかかず
持参した1リットルの水は飲み干したものの
いただいたお茶1本で出発することにした。
ガイド付き登山にして本当に良かった。
昨夜、真っ暗な山道で
「この先は突風の可能性があります」
と危ない箇所を教えてもらえたことも心強かったし、
休憩後には
「息を強く吐くことを忘れがちですからね〜」
と、必ずコツを思い出させてくれたり、
挫けそうになる頃に、いい塩梅に言葉をかけてくれることも有り難かった。
「一定のペースで歩いて呼吸することには、瞑想状態になる効果があるんです。そうやって歩いていると、気がつけばゴールに着いています。」
プロの言う基本行動には色んな深い意味があるのだなと感心した。
更にキツくなってきた頃には
「強く息を吐く時に、お腹に力を入れることを意識しましょう。肚を意識することは覚悟を決めることに繋がり、力が湧きます。」
と教えてくれた。
八号目から先は、当然のことながらそれまでの道のりよりも険しく急な登りとなった。
ご来光を目指すたくさんの登山客で混雑していてペースはゆっくりだったが
まぁまぁ、キツい。
私よりもよっぽど辛そうな長女のことが気になり、
振り返りながら登り続けて、ようやくあと少しのところまで来た。
渋滞でストップする度にストックに身を預けてキツそうにしていた長女だが、
ある時を境に、急にシャキッとし始めた。
後から聞いてみたら、後ろにいた外国人に
「Almost」
と声をかけてもらったそうだ。
長女は、外国語が聞こえてくると、そちらに気を取られてしんどさを忘れるのでいい気分転換になると言っていたが、
この時は、ハッと我にかえるような感覚だったと言う。
あと1ヶ月で大学進学のために渡米する長女は
その大いなるチャレンジを思い出し、こんなところで挫けている場合ではないと
ガイドさんの言う「肚に力」が入ったのではないかと思う。
意識の力はすごい。
まもなく山頂、というところで
私は、ふいに日本一目前の西武ライオンズ清原選手の涙を思い出した。
昭和62年 vs ジャイアンツ日本シリーズ第6戦
熱望していたジャイアンツ入りを、PL学園KKコンビとして共に戦った桑田にかっさらわれたような形となった18歳の彼は、一体どんな気持ちで野球に臨んでいたのだろうか。
当時、ジャイアンツファンであり桑田ファンでもあった私も、あの涙には心を動かされた。
長女が19歳、同じ年頃となった今は更に胸に迫るものがあった。
清原のあの涙とは程遠い、たかが富士登山ではあったが
まもなく目標達成!というところで、すでに私は感極まっていた。
山頂に着いたら長女をハグしたいような気持ちになっていたが、
気持ち悪がられることは分かっているので、想像で満足することにした。

そんなことを考えながら辿り着いた山頂では、
ガイドさんが「今期一番!!!」という
まんまるの美しいご来光を望むことができた。
もやのかかった山頂から見下ろす景色は、それはそれは美しかった。


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